効果的うつ病治療(集合論的薬物療法)
うつ病は、大多数が6-8ケ月の自然経過で終息し(Kraepelin)、2割以下の方が2年以上遷延化します。
抗うつ剤の有用性は数式化すると以下の様になります。
(プラセボの1/3上乗せ効果)×2/3
―(事前説明によるノゼボ効果を含む一般的副作用、自傷他害リスク、中止後症状)
自然治癒迄の期間に抗うつ剤を用いますが、3人に2人までが有効、1人は無効で、効果が出てもプラセボの1/3上乗せ効果に過ぎません。
一方で副作用や、SSRI、SNRIの様に周期性感情病としての満了期間を過ぎたのに中止しようとすると不快な症状が出現し止められなくなることがあります(中止後症状)。
薬を減らそうとすると症状が悪化するのは、「うつ病が治っていない」のではなく、初回に中止後症状の強い薬を選定した場合に起こり易くなります。また、自然治癒のスピードよりハイピッチに高用量に増加させたことが後顧の憂いとなることもあります。
プラセボ(乳糖等)でも抗うつ剤の3/4の効果が、ほぼ無害で得られることは注目に値します。
思考力集中力が保たれ、慣れた道での車運転に支障がない軽症うつ状態では抗うつ剤を内服する必要はありません。
寧ろ、朝7時台の日光浴30分、起床後1時間以内に蛋白質を含んだ朝食、日中30分以上の有酸素運動、午後9時以降は携帯、PC、深夜番組を控えること等で自然と治っていきます。
仕事や勉強に支障が生じ、自宅療養を要するまで悪化している場合に初めて抗うつ剤を考えます。この状態は、事故のリスクが高いので車の運転を控え、電車バス等公共機関を利用して下さい。
では、どの様に抗うつ剤を選んだら良いでしょうか?
併発する病状や状況に(積集合A∩B)よってプラセボ以上の効果が期待できます。
@ 片頭痛を伴う場合
トリプタノール(25)1T
マグミット(330)1T
1×夕食後
うつ病の3人に1人が片頭痛を併発します。トリプタノールは睡眠の質を改善し、同時にうつや片頭痛を改善します。また、抗炎症作用やNMDA受容体拮抗作用があり、BDNF(脳由来神経栄養因子)を増やす作用が近年注目されています。
多量服薬しなければ、75rくらいまで漸増し、平均1年程度で漸減、通院を終結できる可能性があります。
マグネシウムは片頭痛予防効果、NMDA受容体の活性阻害、心電図QT延長予防効果があります。
頭痛が難治で、バルプロ酸なども併用し改善ない場合は、心臓の卵円孔開存、発作性片側頭痛、群発頭痛などの再検討が必要です。
A 妊娠可能な若年女性
ルジオミール(25)1T
フェログラ1T
1×夕食後
ルジオミールはセロトニンへの作用がないため、夫婦生活再開時、中止後症状が少なく、催奇形性も弱いです。貯蔵鉄は月経で減少し、神経伝達物質のドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンを作る酵素の補因子として機能しています。貯蔵鉄(フェリチン)が不足すると神経伝達物質が低下します。フェリチンが50ng/ml以下で妊娠、出産すると、母体も胎児も鉄不足になる為、母親の場合は、流産、切迫早産、産後鬱、パニック障害等のリスクが高まり、胎児の場合は、ADHD、歯並びが悪くなるリスクがあります。 予めフェリチン採血と鉄の補給が、うつ病の改善と妊娠準備のため重要です。
B 緑内障や前立腺肥大がある場合
ドグマチール(50)1.5T
パーロデル(2.5)0.5T
1×夕食後
抗コリン作用がないので使用可能です。ドグマチールは3日目から漸減し、最終的に10r以下まで減らすと、乳汁分泌や無月経の副作用が起きなくなります。
パーロデルはストレスにより上昇したACTH-cortisolやプロラクチンを抑制する作用があります。
C 前立腺肥大、高血圧、LDL高値、悪夢等を伴う場合
ミニプレス(1)1T
1×夕食後
ミニプレスはα1拮抗薬で降圧剤として使えます。
サインバルタ、イフェクサーは、生活習慣病への副作用が多くみられます。これはα1拮抗作用を持たないことも原因になっている可能性があります。三環系四環系抗うつ剤はα1拮抗作用があり副作用が少なくなります。
D 花粉症が毎年ある場合、花粉症の季節前にうつ状態になった場合
ノリトレン(10)1T
1×夕食後
花粉症も予防する事が期待できます。
E 痛みを伴う場合
カルバマゼピン(200)1T
1×眠前
NNT(1例の効果を得るためにその治療を何人の患者に用いなければならないかを示す指標)が2で抗うつ剤よりも優れています。但し、発疹などの副作用に注意が必要。
サインバルタは躁転や、痛みが改善しないのに、中止後症状が出現するリスクがあります。
F 亜鉛食品(牡蠣、牛肉、卵、胡麻等)の摂取量が少ない場合
プロマックD(75)2T
2×朝夕食後
味覚異常がなくても無気力、易刺激性がみられる場合、採血をすると当院では3人に1人以上に亜鉛欠乏症がみられ、食事指導と共にプロマックDを処方しています。
G 睡眠時無呼吸症候群がある場合
デジレル(25)1T
1×夕食後
ダイアモックス(250)0.5T
1×夕食後
うつ病の5人に1人は合併します。デジレルは、筋弛緩作用がなく、深睡眠を改善し、食欲をあまり刺激しません。ダイアモックスは夜間の酸素飽和度を改善します。
H 運転が必要、うつは軽いが不眠傾向、血圧高めの場合
カタプレス(75μg)1T
1×夕食後
カタプレスは降圧剤ですが、夜間帯の交感神経から副交感神経への切り替えを促し、入眠期の成長ホルモンを刺激します。運転禁ではありません。
I パニック症、強迫症、社会不安症、下痢型過敏性腸症候群等を伴う場合
アナフラニール(25)1T
1×夕食後
アナフラニールはREM睡眠を抑制し入眠初めの90分のnon-REM睡眠を改善します。
セロトニン・トランスポーターを80%占有する用量は、アナフラニール10r=レクサプロ10r=ジェイゾロフト50r=パキシル20r=ルボックス50r=イフェクサー50r=サインバルタ40rで、充分なセロトニン再取り込み阻害作用があり、不安を改善します。
また、興奮性アミンのヒスタミン伝導系を夜間帯抑えてくれる作用があります。
新型コロナ感染症に関して、ウイルス侵入を阻害する候補薬にもなっています。
J 生活習慣病で内科通院中、不安症(全般性、パニック、社会不安)を伴う場合、掛かりつけ医の先生が御処方の降圧剤合剤を
カタプレス(75μg)1T(→不眠強ければ300μgまで夜間帯漸増)
プロプラノロール徐放カプセル(60)1Cap
1×眠前
に置換して頂くと改善する場合があります(喘息のある方は非適応)。
K 食欲低下、不眠が顕著なとき
リフレックス(15) 0.5T
1×夕食後
L 朝起きにくい、日中涙もろくなる方
エビリファイ液剤1cc
1×起床時布団の上で内服
M 繰り返すうつ状態(躁うつ病へ移行する可能性があり、その場合はLi等の別処方)
オランザピン(1.25r)1T
1×夕食後
(肥満タイプなら)
ルーラン(4)0.25T
1×夕食後
(1年に4回以上繰り返すなら)
クエチアピン(50)1T
1×夕食後
(橋本病を伴う場合)
ペリアクチン(4)0.25T
1×夕食後
慢性甲状腺炎の抗炎症とACTH-cortisolの抑制、熟眠効果に役立ちます。
N 罪悪感、経済的困難、悪い病気では?等、現実と異なる思い込みが異常に強い場合
アモキサン(25)2Cap
2×朝昼食後
覚醒作用あり、日中服用、ドーパミン(D2)拮抗作用あり、強固な確信を和らげる効果があります
O 死にたい気持ちがあるとき
リーマス(200)2T
1×夕食後
SSRI、SNRIに自殺予防効果はありません。
リーマスだけが効果あります。速やかに入院する事をお勧めします。
P 単身者、インスタント食品など食生活が乱れ、夜間PC、携帯が離せない方
抗うつ剤は無効です。
入院してバランスの取れた病院食、午後9時の消灯による日内リズムの改善が必要です。
処方は、体重や年齢により適宜、量を調整し漸増漸減を行います。
上記内容は、世界生物学的精神医学会のガイドラインと異なる面があります。
抗うつ剤の本邦への導入治験が行われました。
日本人への有意差が無く1回目の治験で失敗、変則的に保険適応となっている薬があります。それ故、治療は、個々の精神科医の考え方により混沌としています。
新規抗うつ剤の自傷他害リスクは熟慮する必要があります。
自殺リスクに関して、Healyは、実際には抗うつ剤群で高かったのに、プラセボリードインの期間と試験薬投与終了後のプラセボ投与期間(中止後症状含む)を意図的にプラセボ投与群にカウントし、抗うつ剤群に有利に統計処理していることを指摘しました。
FDAのHammadは是正した解析を行い、自殺関連リスク比は
パキシル 2.15(0.71〜6.52)
ジェイゾロフト 2.16(0.48〜9.62)
ルボックス 5.52(0.27〜112.55)
イフェクサー 8.84(1.12〜69.51)
小児・思春期で、敵意・激越興奮の相対リスクはパキシルで7.69(1.80〜32.99)
でした。
また新規抗うつ剤の中には睡眠構造の改善作用がなく、嘔気により朝食が取れなくなるものがあります。新薬は薬価が高く、費用対効果は低く、衝動性のリスクが高い傾向があります。また、中止後症状のため減薬すると症状が悪化し、「やっぱり効いている、うつ病は治っていない」と誤認されてしまう場合があります。
三環系四環系抗うつ剤は、低用量で多量服薬さえ防げれば、費用対効果は高く、短期間で通院を終結できる可能性があります。通院で失われる時間や費用を余暇などストレス発散の時間に割り振ることが可能となります。
以上、うつ状態を例に処方のパターンを示しました。
内科方向からのアプローチの場合は、例えば高尿酸血症がみられれば、躁うつ病にリチウム、統合失調症にロドピン、高血圧にニューロタンなど、尿酸下降作用のある薬剤を選ぶことができます。
この様に、集合論的(A∩B)に考えると、使用薬剤を減らしていくことが可能です。
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